2016年3月25日金曜日

スペース・ラヴ 後編スタート

桜が咲き始めました。風はまだ冷たいけど、そーっと花が開き、メジロを呼び、光を集め、水を温ませてゆきます。毎年ちゃーんと春は来ます。


さて、Short Story スペース・ラヴ 後編スタートです。書くことない時にボチボチ掲載予定。まだ最後まで出来てないので気長にお付き合い下さい。

<スペース・ラヴ 前編あらすじ>
お隣の星L1195惑星(アテーナ星)に留学中の僕は帰省の途中で、L878小惑星(水の星)の植物であるワラと出会う。七色の髪を持ち、どう見ても女の子に見えるワラは、水の星の水資源危機を回避するため、僕の星L1123惑星(ネレイス星)の水を自ら吸収する実験を行うために向かう所だった。しかし到着したワラは、初めて見る水車にシンクロして倒れてしまう。僕は水車を緊急停止しワラを救出、更に歌で目覚めさせたが、回復したワラは使命を果たすと宣言し、再び水車に向かう。そして自ら吸収実験を行うが、水が強すぎて倒れてしまった。髪の色は七色から水色に変化し、枯れてしまったワラを抱きしめて僕は涙をこぼす。僕はいつの間にかワラが好きになっていたのだ。ところが、僕のこぼした涙を吸収したワラは生き返り、僕の気持ちに応えてくれた。有頂天になった僕だったが、ワラは水の星に報告に戻る、また帰って来ると宣言して飛び立ってしまった。後に残された僕は少し不安なままワラを待って、休みを過ごしていた。  詳しくは一番下のリンク参照

<再会>
僕(おっと、名前はケイってんだ)はまだ、ばあちゃんに話していなかった。だって初めての恋人が植物だなんて、それも元々虹色の髪が、実験の結果アクアブルーになって、耳はないけど音楽が好きで・・・ なんて話そうものなら
「ケイ、おまえ勉強も程々におし。環境だか資源だかが頭ン中で渦巻いちゃって、マボロシ見てんだよ」って一蹴されそうで怖かったのだ。実物連れてこない事にはどうにもならない。僕は初恋に囚われたジュニアみたいになっていた。

「あーあ、とうとうワラ来なかったなあ。どうしちゃったんだろ。」
大学に戻る日を明日に控え、憂鬱な気持ちで荷物を詰め込んでいた僕は、窓から空を見上げた。余りに早い失恋タイム。ばあちゃんの言う通り、ひょっとして幻だったのではとさえ思った。出るのは溜息ばかり。あーあ。

すると突如スピーカからばあちゃんの声。
「ケイ!おっきい溜息ついてんじゃないよ。幸運が逃げちゃうんだからね!ちょっとリビングにお出で。」
けっ、溜息まで監視されてら。ばあちゃんからは逃げられんと重い気を引きずってリビングに入るとワラが居た。

「へ? え? ワラ? なんで? どーなってんの? えーーーっ?」
何とワラは、ばあちゃんとお茶していたのだ。
「ケイ、いいお嬢さん見つけたねえ、でかしたよ。ワラちゃんって耳がないけど、ちゃあんとお話しできるんだねえ」 ばあちゃんの頬も紅潮し、二人の前にはレモンティーが湯気を立てている。
「いや、だってさ、ワラ、いつの間に、どこから、その、レモンティーはここの水で淹れてんだけど、えー?なんで平気なの?」
僕は何から言っていいのか、何を言っているのか判らなくなった。しどろもどろってこの事だ。
∞ 免疫っていうのが出来たみたい。この髪の色が証拠だって長老が言ってた。あなた、ケイって言うのね。窓から覗いたらケイがくらーい顔してたからさ、こっちに回ったら、おばあちゃんが カモンって言ったの。
はー、なんじゃそりゃ。女同士って時々ミステリーになる。
「この娘が窓から覗いてたからさ、見ると別嬪さんじゃない?髪も素敵だしお入りよって言ったらさ、そこの壁を抜けてきちゃってさ、ユーレイみたいで素敵だよねえ。みんな聞いたよ。ケイ、頑張ったねえ」
素敵なユーレイってのも理解できないが、まあいろいろ説明する手間は省けたようで、取り敢えず僕はほっとした。
「ワラって壁抜けの術とかできるんだ?」
∞ 壁が植物だからよ。お話しだって出来るよ。だけど壁が土や鉱物なら抜けられないわ。
うーむ、どうやら分子レベルの話らしい。頭の隅に「卒業研究テーマ」が過った。休暇中に密かに開発した”ワラウォータ”より稼げそうだ。でもなあ、壁と話するって、聞きようによっては恐ろしい。まさに壁に耳ありじゃないか。

ばあちゃんはにこやかに続けた。
「でさ、ケイはあと1年はまだアテーナ星にいるんだろ?じゃあ結婚式は1年先だねえ。それまでワラちゃんもアテーナ星に居られるかねえ、それともこっちに来ちゃう?」
「ワラちゃんはね、ちゃんと長老さんに届けたんだってよ。ネレイス星で結婚しますって。」
え?そこまで話は行ってるの? 僕の恋人気分は吹っ飛んだ。ケッコンって、長老は良くてもここの役所はどーなんだ?そもそもどんな生活?子供ってできるの?決して後悔ではないけれど、こうなる事を予想しておかなかった男のアンポンタン振りに自分でも呆れてしまった。
「いや、何にも考えてなった…。だってこんな急展開って考えられる?」
「ね、ケイって結構抜けてるでしょ。親も居ないからさ、あたしが付いてないと全然ダメなのよ。でもまあこれが最後のお世話になるかなー。」
∞ 解ります。すぐにデレデレしちゃうし。
二人で言いたい放題だ。ま、理詰めでは敵いっこないので、僕は話題を変えた。

「じゃあ、ワラは僕と一緒に戻るって事?まあアパートは住めるけど、水の星から来たって初めてだからどうしていいのかよく判んないな」
∞ 何にも要らないよ。木があれば入っちゃえるから、怖い時は隠れてる。ケイの作ったお水もあるし、全然平気。
水色の粉を少し撒いて、ワラはケロっとして言った。そしておもむろに浮き上がるとばあちゃんに向かって深々と腰を折り
∞ おばあちゃん、不束者ですがよろしくお願いします。時間があるとき、遊びに来るね。
そして僕に向かって
∞ じゃあ先に行ってるね。
と微笑んだかと思うと、壁をすり抜けて見えなくなった。窓の外には水色の曳光。ばあちゃんも一緒に見上げて、
「へえー、美人のエスパーって格好いいねえ。あたしも50年若けりゃなあ・・・」
50年若けりゃどうなんだか聞きたいのを堪えて
「と言うことで、ばあちゃん、追々考えてくわ」とお茶を濁した。全く事実は小説より奇なりってこの事だ。飛ぶことも消える事も出来ない僕は、少々の劣等感を抱えて再び荷造りに戻った。

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只今、奈良市の気温は2℃です。春は来たけど何やってんだか。

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