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奈良公園の芝に並んだ梅の木に、まあるい花が鈴なりになった弥生三月、彼女は長い三脚を抱えてやって来た。春の空は白く霞み、紅梅白梅の下に戯れる鹿たちは、まるで一枚の屏風絵だ。初めてのミラーレスには十分な素材。彼女は目を見張り、シャッター音は木々を巡った。草を食みながら時々揺れる鹿の尻尾が、春の空気を小さくくすぐって、彼女の微笑みを誘う。よしっ、光琳を超えるモチーフだ。ここぞの連写音が響いて、バンビの目もまあるくなった。
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桜に較べ地味な感のある梅です。梅は元々は中国から薬用で輸入されたもので、梅の花見も一時は貴族の間で流行ったそうですが、後に桜が主流になったとか。確かに満開の桜の明るさ、美しさは心に春を呼び込む代名詞で、それが一斉に散るさまは日本人の心を捉えます。
でも梅の花もよーく見て下さい。丸くて結構可愛い。『梅一輪 一輪ほどの暖かさ』という有名な句があります。今年はちょっと変ですが、平年ならまだ寒さの厳しい早春に一つずつ咲いてゆく小さな梅の花、その周りには小さな暖かさがほっこり見える。詠み人の優しい、暖かい感性が伺えます。
梅は小さな春の露払いです。
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